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基礎知識

空飛ぶクルマと屋上Vポート

2022.05.25

空飛ぶクルマと 屋上 Vポート「空飛ぶクルマ」時代に向けて今、何をすべきか


「空飛ぶクルマ」時代に向けて今、何をすべきか
大型ビル屋上の昔と今
ここまでヘリコプターと「空飛ぶクルマ」の特性をお話ししてきました。ヘリポートと「Vポート」の違いも少しは理解いただけたと思います。
さて私たちは10年後、20年後あるいは30年後に来るであろう「空飛ぶクルマ」時代に備えて具体的に今、何をすべきなのかを一緒に探って行きましょう。昭和30年代に建てられた大型ビルはその多くが屋上を開放していました。アパートでは屋上に洗濯物を干し、オフィスビルでは昼休みにバレーボールを楽しむこともありました。屋上は極力広く平坦に作ることが求められました。今でも地方都市の中学校や高校ではそのような屋上を持つ校舎を見かけます。

 

屋上でバレーボールを楽しむ看護師
1954年3月30日東京新宿区の厚生年金病院 写真=共同通信社

 

ところが屋上からの飛び降り自殺や器物の落下事故などが続き、あるいは不審者対策のためもあり徐々に屋上を開放するビルは減っていきます。
どうせ使われない屋上なら広く平坦にする必要はない、と設計者は考えるようになります。それまでは地下や1階に設置していた受電設備などを屋上に上げてしまいます。また各フロアに設置していたエアコンの室外機なども屋上に上げてしまいました。
特に都市部の建物は容積率で管理されますので、できるだけ多くの居住スペースを確保するためにはこれらの物は容積率の対象にならないように屋上に設置することが増えたのです。最近のビル屋上には平坦な場所はほとんどありません。わずかに消火・救助活動用の「Hマーク」「Rマーク」の部分だけが平坦な状況です。これら既存ビルの屋上を改造して「Vポート」を造ることは不可能です。そもそも確認申請が通らないでしょう。
屋上に「Vポート」を造るのであれば、計画段階から織り込まなければならないことは既に2021年11月のコラム内で「設置の流れと留意点」としてお話ししました。
どのような準備をすべきか
大型ビルはできるだけ容積を稼ぎたいので受電設備やエアコンの室外機などを容積率に関係のない屋上に配置していることを述べました。広い「Vポート」を造ることによって容積が発生することになればビル建設において大きな負担増になります。10年後か20年後のためにそのリスクを取るのは難しいでしょう。容積率に算定される容積が現状と変わらないまま広い「Vポート」を設置するには下のイラストのように壁のない床を張る方法があります。ヘリポートでもこの形で容積を発生させずにヘリポート床面を形成している事例は多くあります。

 

着陸帯の下部に壁を設けなければ容積率に影響しないことも

 

 将来的には「空飛ぶクルマ」のために建築基準法が改正され、例えば「『Vポート』およびそのエプロンの下部1フロアは居住容積から控除する」などとなればいいのですが……。

 

 

機械設備が置かれ平坦な場所が少ない現在の屋上

 

Vポートには下層階への直通エレベータを設置すべき

 

『容積率』という大きな問題
これからの大型ビルは、将来のVTOL 時代に向けて屋上にはVポートとして利用できるような準備をしておいてほしいのです。
通常の屋上面の上にさらに屋根を架けることになります。この屋根がVTOLの着陸床になるのです。ここで大きな問題が二つあるのです。
問題の一つ目はコストです。現状の大型ビル屋上には機械室や空調設備などが所狭しと並べられています。この上に屋根を架けることになるのですから当然、その費用が発生します。誰がそのコストを負担するのか。ビルオーナーが10年後20年後に向けてそのリスクを取ってくれればいいのですが、簡単ではないでしょう。
問題の二つ目はもっと大きいものです。我が国の高層ビルはすべて、都市計画法や建築基準法の元、「建蔽率」「容積率」が決められています。「その場所には何階建てのビルまで建てられるのか」が法律で管理されています。高層ビルの建設費は、その部屋を利用者へ貸すことによって賃料収入で賄われます。デベロッパーとしては容積率ギリギリまで大きなビルを建てたいのは当然のことでしょう。ところが将来のVポート利用に向けて屋上に屋根を架けるとそこに容積が発生してしまう、という問題があります。50階建てビルの屋上に屋根を架けたら「51階建てのビルだ!」と指摘され法律違反になる可能性があるのです。将来のために今のうちから「Vポートは容積率に含めない」などのルール作りが急がれます。
我が国の都市部上空をVTOL が飛ぶのはいつ頃なのでしょう?2030年ころ?2040年になる?予測するのはなかなか難しいのですが、これまでのVTOL 開発の加速度的な進歩を見ますと意外と早く飛べるのだろうと思っています。つい2、3年前までは「生きているうちに東京上空をVTOL が飛ぶことはないだろうな」と思っていました。それが「生きているうちに飛べるかもしれない」と思うようになり「10年後には?」「いや5年後には飛んでいるかも」と変わってきました。
ここで問題なのが「都心上空をVTOL が飛べるようになってもビル屋上にVTOL のための着陸帯『V ポート』がなければ降りられない」と言うことです。この本の中で幾度となくその問題を指摘しています。5年後なのか、10年後か20年後になるのか分かりませんが今すぐに準備を始めたいところです。

 

 

 

容積率500%伸びるに屋根を架桁ら、600%になる可能性がある

 

 

あらためて確認を 2021年11月のコラム内「設置の流れと留意点」でお話ししましたが、屋上に「Vポート」を設置するのであれば、まずは利用しやすい動線の確保が必要です。現状の大型ビルで下層階から屋上フロアまで繋がる直通エレベータを設置している例はほとんどありません。逆に屋上フロアから下層階へ降りようとしても迷路のような動線のビルばかりなのです。ビル利用者が屋上フロアから下層階へ移動することを想定していないのです。多くの大型ビルで、屋上に出るのは設備事業者しかいないからなのです。
「空飛ぶクルマ」時代に向けて「Vポート」フロアから下層各フロアへの単純な動線の確保が必要です。さらに「Vポート」には将来、「充電設備」や「バッテリー交換設備」、「待合室」のためのスペースも必要です。
夢ある「空飛ぶクルマ」の時代に向けて、余裕を持って準備を始めましょう。

 

*「Vポート」はVertiport の略称で、空飛ぶクルマ(eVTOL)の離着陸帯(その他の呼称はバーティポート、バーチポート、ヴァーティポート、ヴァーチポートなど)

書籍案内「空飛ぶクルマと屋上 Vポート」

 

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